マドリッドを通過するあたりで、重大な事実でかつ一筋の光明とも言うべき状況を、われわれは悟った。最後に高速道路代を払ったのは随分前で、あれからずっと料金所らしきものがない。それはちょうど、道が悪くなったのと同調しているかのようだった。ひょっとして、マドリッドへ出入りする高速道路は無料なのではないか?ぬか喜びは危険だが、私 はぬか床でもどこでも喜んで突入するぐらいに、無料に飢えていた。
「そういえば、お金払ってませんね」、とYさんに言いたいところだったが、言ってしまえば覚めてしまう夢なのではないか、という思いもあって、気づかないフリをして走り続ける。さすがにマドリッド市内を抜ける高速は、例えば首都高や阪神高速のように一律料金を取られてもおかしくないけれど、それぐらいだったら払ってもいいな、と思えるくらいにはドキドキ精神が正常に回復しつつあった。
ところが、マドリッドに入っても抜けても、一向に料金所らしきものがない。どころか、コルドバに向かう高速道路自体がだんだんとしょぼくなっていく。私の心の中では、この道で大丈夫なのだろうかという不安と、この道ならばお金を取られないだろうという安心が、奇妙に混じり合っていた。
マドリッドを抜けて、高速道路なんだか幹線道路なんだかバイパスなんだか判らない道を走り続けていくうちに、希望が確信に変わった。やはり、首都マドリッドへ続く道は、タダなのだ!バルセロナという近代都市と、マドリッドという古き都の差を、これほど嬉しく思えたことはないし、これからもそう感じることなどないだろう。
俺たちのミッレミリアPART15
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執筆者:koganemushi