エントリーモデルでも十分?!
いくらかS500L人気が収まった後に、主力となるのは間違いなくS350でしょう。これまでのSクラスにおいても、乗用車としてのバランスの良さとコストパフォーマンスの高さを考えると、常にV8やV12エンジンを搭載するアッパーモデルより、6発系の廉価グレードの方が堅調に売れ筋を保ってきました。
W221ではその傾向がさらに強まりそうな予感がします。すでにEクラスなどに積まれて評価の高い3.5L6気筒エンジンの高性能化に加えて、上級グレードとの装備差がなくなってきたからです。つまり、今のS500と比べるとパワースペック等に歴然と差を感じますが、これまでのレベルで考えればS350のスペックは決して見劣りしないものに進化しているんです。装備レベルでさえ最新最高のグレードと同じだということになれば、もはや高いグレードを買う理由が、文字通り高いということだけに。その象徴が、シャーシでしょう。
W221では、AIRマティックサスペンションが全グレードに標準装備。これまでの例を見れば、エアサスは上級グレード専用の装備であり、あの乗り味が欲しければ、価格も見てくれも違う高いモデルを買うしかありませんでした。でも今度のは違います。中身も見てくれも、S500とS350で変わるところがほとんどありません。ホイールデザインやタイヤサイズも同じ。エリアエンブレムが違うだけなんです。
最大のウリは、シャーシとトランスミッションのモードをボタン1つで切り替えられることでしょう。センターコンソール内にあるS(スポーツ)/C(コンフォート)/M(マニュアル)スイッチがそれで、通常はCを選びます。この場合、120km/h以上で車高がまず10mm下がります。さらに160km/hに達すると、もう10mm下がりダンピングがハード設定に。車速が80km/hまで落ちると、通常のモードに戻るというセットになっています。シフトアッププログラムは低回転域変速で、2速発進をチョイス。
スポーツを選ぶとどうなるか。車高調整は100km/h越えでいきなり20mmのローダウンとなり、60km/hで元に戻ります。ただしダンピングモードは40km/hをこえると圧縮側をハードに設定します。そして、シフトアップポイントはエンジンの全回転域を使って行われるという具合なんです。マニュアルは、変速を自身で行う以外、スポーツと同じ設定。また、悪路などにでくわし普段より高い地上高が必要な場合に備えて、ボタン1つで車高を30mm上げることもできる優れもの。
前置きが長くなりましたが、肝心のS350のインプレッションを報告しましょう。その装備差の少なさや、そしてS500ショートとの重量差が50kgしかないこともあって、基本的な乗り味はほとんど変わらないと考えていいです。確かに一昔前のAMG級パワフルさが自慢のS500から乗り換えると、発進加速には物足りなさを感じるは事実です。ただ、272psは十分なスペックで、ひとたび流れを掴んだあとは、追い越し加速も十分に満足できるレベル。
何よりエアサス特有のどっしりと重く弾力のある乗り味は、発進加速の物足りなさを補ってあまりあるもので、ほぼS500と同等の乗り味をみせてくれます。高速走行時の安定感などは、これまでの6気筒Sクラスでは考えられなかった上質さがあります。
もっとも、廉価グレードに特徴的だった軽やかさとは無縁になってしまったのも事実です。ノーズの軽さ、コイルサスの軽快さを懐かしむ向きも中にはあるでしょう。どちらか好みに応じて選べるのならばそれに越したことはなく、将来的にさらに安いSクラス(S280?)でも出てくれれば、軽快な身のこなしのSクラスも期待できるというもの。
完成度を増したエアサスが新型Sクラスの走りをこの上なく上質なものにしていると思う反面、これだけのシャシーをコイルサスで乗ってみたいと思うのは、やはり趣味の世界からのいじわるな見方なんでしょうか。
個人的に気に入ったアイテムは、間接照明とオプションのナイトビューアシスト。間接照明アンビエントライトは、夜間照明時に、ダッシュからドアにかけて拡がるウッドパネルの下端、ちょうど繊細なクロームラインの走るすぐ下がほのかなオレンジ色に光るというもので、だからどうなのと思う一方、とてもゴージャスな雰囲気にヤラれました。
ナイトビューアシストは、23万円を追加で払って十分に元の取れるシステムだと思います。速度計の位置に表示される赤外線カメラによる映像が非常にクリアで、キセノンヘッドライトではまるで見えないものがはっきりと映し出されます。画面だけで運転できそうな錯覚を覚えるほど、見えない景色がきれいに映し出されます。ちなみに速度計も液晶でアナログ風に表示されているだけ。各種情報を呼び出した場合には指針が途中から消えるようになっています。