そいつは、真っ白な大きな体に、青い火の鳥を羽ばたかせ、並居る名車(ケンメリスカイラインGTXからロータス78まで)が並ぶその”駐車場”で、大いに異彩を放っていた。
ハニカムのホイールは金属の質感も十分。インテリアカラーは当時としては珍しいブルー一色で、それがまた白と青い火の鳥と、冷たいが気持ちいい雰囲気を醸し出していたものだった。
お気に入りの1台である。見るたびにしげしげと細部にまで見入り、大人になったら絶対に乗ってやるんだと思っていた。ひょっとしたら、子供心にフェラーリBBよりも現実感があったのだろう。休みの日などは、飽きもせず、それこそ朝から晩まで眺めていた。
当時は、年式とか仕様だとか、そういう細かなことはまるでわからなかったんだと思う。今にして思えばあれは73年式なのだが、たまに本で見かけるトランザムの顔が違ったり、鳥の大きさが違ったりで、もうそれだけでがっかりしたものだった。乗るなら、鳥のでかいやつ=73年式に決めていた。
結局、免許を取ってセリカXXに乗り、大好きなスカイラインなどいくつかの愛車を経て、フェラーリBBにはたどり着いたのに、73トランザムは今も憧れのままだ。
否、一度だけ、ボクの手元にきそうになったことがある。たぶん10年前ぐらい、埼玉のアメリカ車専門店で、4速マニュアルミッションの白い73トランザム455があった。内装は黒だったけれど、ボクは一目ぼれした。その店には、他に貴重なマッスルカー(シェルビーGT500とか)がいっぱいあったので、可哀想にも野ざらしだった。早く買って上げなきゃ、という気にもなったのだ。200万円ぐらいだっただろうか。
実は、勢いで申込書を書いていた。内金も何千円か入れたんだと思う。翌日、正式に電話を入れるといって、ひとまず家に帰り、お金の算段がつくか頭を冷やして考えてみた。
無理だった。
泣く泣くキャンセルを申し入れ、それから今まで73トランザムの売り物に出会うことなどなかった。トランザムの値段も急騰してしまった。この苦い経験があるからだろう、中古車は一期一会、ピンときたクルマを即決で買うようになったのだった。
2年前に横浜のお店で、(たぶん)同じ個体と再開した。売ってくれるという話だったから、何度も見に行ったが、なぜか買う決断に至らなかった。青い鳥が、もう飛んでいなかったからだった。
正月に実家に戻り、自分の部屋の奥の物置きを覗いてみた。JPSのステッカーがバリバリと剥がれた見るも無惨なタミヤ製1/24ロータス78・マリオアンドレッティの向こうに、ひときわでかいボクのオータキ製1/8ファイアーバード・トランザムが停まっていた。
縁がちょっと黄ばんでいたけれど、青い鳥がちゃんと舞っていた。
取材先のRSディノさんにて
本日の西川君
・今日乗ったクルマ
シトロエンC6(愛車)
・今日書いたクルマ
SUVいっぱい、スカイラインV36
・今日読んでた本
荒らぶる血
・今日のランチ
守谷SAで肉まん1個