事故は2018年4月29日、綾瀬市の東名高速上り線で発生しました。海老名サービスエリア-横浜町田インターチェンジ間で、渋滞で停車していたバンにオートバイが衝突してしまったんです。
事故に遭ったライダーは衝撃でバイクから転倒。一緒にツーリングしていた仲間3人が事故現場(渋滞中の追い越し車線)でバイクを停車し、事故を起こしたライダーをとりあえず中央分離帯の縁石に腰掛けさせ119番通報したそうです。
(事故直前を捉えていたドライブレコーダー:訴状より転載)
当然、後続車両は事故現場を回避すべく車線変更して過ぎ去っていくなか、テスラ「モデルX」は加速しながら停車中のバイクに衝突、舞い上がったバイクはライダーたちにぶつかった。そして、モデルXは東京都板橋区の男性の頭を轢き、停車中のバンとぶつかって止まった、という凄惨な事故が発生・・・。この事故で1名が死亡し、2名が負傷しました。
モデルXはレベル2と呼ばれる自動運転に準じるクルーズコントロール機能が搭載されています。自動緊急ブレーキ、正面衝突警告システムを組み合わせ、前方の車両と一定の車間距離を保ちながら自動で追従走行する、いわゆるアダプティブクルーズコントロールですね。
被告人側の主張は概ね以下の通りでした。
1.事故当時、被告人が居眠りをしていたことは認める
2.しかし、事故を起こす直前までは、居眠り運転でありながらクルーズコントロール機能によって安全に運転されていた
3.ただ、事故の2秒前にこの機能が故障。前方の障害物を認識しないまま加速する「暴走」状態に陥った
4.自動ブレーキも警告システムも全く作動せず、事故に至っている
5.被告人はアクセルもブレーキも踏んでいない。システムの故障が原因なので、被告人が起きていたとしても事故は回避できなかった
つまりは無罪を主張したんです・・・。
2020年3月31日、横浜地裁にて当該事件の判決が言い渡されました。判決事由は以下の通りでした。(朝日新聞参照 )
・(被告の車が前方の車両を検知せず加速した理由は)システムの故障か機能の限界かは判然としない
・事故直前、被告が前方注視が困難なほど強い眠気に襲われていたと認定
・運転中に眠気を覚えた場合は運転中止義務があるとし、「中止義務に違反した被告の過失は相応に重い」と指摘
どうやって裁判所が眠気を認定したか・・・、は車載ドライブレコーダーでした。事故直前のモデルXの車内では被告人と、助手席にいた女性(被告曰く友人)との間で次のような会話があったそうです。(デイリー新潮参照)
<ゴルフ帰りだった2人の会話>
被告:君と一日中いちゃいちゃ、ベタベタしてられればいいんだけど
女性:いやだぁ
被告:川崎のいつものところで、いちゃいちゃして
女性:夜には帰っちゃうんでしょ?
被告:それなら、グランドハイアットに寄ってさ
下世話な話ですが被告人は、不倫も見事にバレていますね・・・。睡魔に襲われた男を見かねて、女が「起きて」、「運転かわろうか?」と問いかける場面もあったとか。
っで、判決は禁錮3年執行猶予5年(求刑禁錮3年)でした。執行猶予付きとしては重い部類に入りますが、自由の身であることには変わらず・・・、被害者遺族はたまらないでしょう。
そして、遺族は横浜地裁の「(被告の車が前方の車両を検知せず加速した理由は)システムの故障か機能の限界かは判然としない」を明確化すべく、テスラを4月28日に提訴したことが明らかになりました。45ページに渡る訴状に目を通してみると、以下の主張が強くなされています。
カットイン、カットアウト(前方車両による急な横入り、横抜け)すると前方の停止物を認識できない恐れをTESLA自身が認識(オーナーズ・マニュアルに記載されている)。
(テスラ・モデルXのオーナーズ・マニュアルより転載)
にもかかわらず、テスラ車はドライバーエンゲージメント検出機能が欠如している、という指摘がなされています。なんとテスラ車では、ドライバーがステアリングを握っているか否かしか判断しないんだそうです・・・。ちなみに例として、トヨタやフォードが採用する複数のセンサー、カメラによるドライバーエンゲージメント検出機能が列挙されていました。
また、LIDARを採用せず、安価なセンサーとカメラで繰り返し道路状況を機械学習させることで精度が増す、というテスラの手法は自動車で取るべき手段ではない、とも主張されています。β版でとりあえずバグの洗い出しをする、というのはゲームとかOSとかでは一般的に用いられる手法です。テスラは同じことをモデルXでやっているんですね・・・、ドライバーに注意しながら使えよ、謳っているとはいえ。
(事故車両の後続を走る車両のドライブレコーダーが撮影:訴状より転載)
一番の責任はドライバーに科せられるでしょうが停車しているバイク、人、クルマを認識できなかったアダプティブクルーズコントロール、アメリカでどのような判決が下されるのか、進捗を見守ろうと思います。