走りとスポーティの演出が巧みに進化
「BMWの走りが変わり始めた!」。新型7シリーズで既にその傾向を感じてはいたけれど、今回、スポーツモデルの新型Z4に試乗して、改めてその思いを強くした。
ここ数年のBMWは明らかにアジリティ重視の傾向が強く、特にアクティブステアリング採用以降に顕著だった。クルマの動きがシャープで過敏。それがBMWのスポーツイメージを高めていた感は否めない。受け入れられなかった人以上に好きな人も多かっただろうし、分かり易い個性の演出だったから否定はしない。けれども、それ以前の、たとえばE463シリーズのような絶妙な味付けに惚れたことのある身としては、ちょっと演出過剰な気がしてならなかったのだ。今回は明らかに、その雰囲気へと戻りつつある。
これにはアクティブステアリングの熟成と、ランフラットタイヤの進化が寄与しているのだと思う。いずれも昔ほどの違和感はなくなった。前者は、アクセルレスポンスやシャシーダンピング、シフトスケジュールなどとの統合制御によってより使い易いものとなったし、第三世代に入ったと言われる後者もほとんどノーマルタイヤを変わらぬ性能を発揮する。そんな背景もあってか、新型Z4の走りは、以前に比べるとより洗練された、どちらかと言えばGTカーよりのものだったという印象が強い。
もちろん、スポーツ性は間違いなく向上している。統合制御のDDCをスポーツ+にすれば、300psオーバーの直噴直6ツインターボエンジンのパフォーマンスが7速ダブルクラッチシステムによってフルに引き出され、Mモデルも真っ青な走りを見せつけるのだ。特に4500回転を超えたあたりからのサウンドと、背中の後ろでけり飛ばされるようなFR独特のライドフィールは、スポーツカーとして最上のもののひとつ。そのあたりの性能と演出は、旧型を大きく上回る。
けれども、尚、上質になったと思わせる何かがある。
例えば、足の動き。よく動く前足はスポーツドライブに最適だが、その一方で、動きのひとつひとつの質感が非常に高く、それを確かめながらのドライブが気持ちいい。ややもすると、スピードを上げずに、その一挙一足を味わっている自分がいる。そう、ゆっくり走っていても気持ちのいいビーエム、なのだ。そこが、最近のBMWとはちょっと違う。
リトラクタブルハードルーフ仕様になったことも大きい。小型の開閉式ハードルーフモデルとしては異例にエレガントなクローズドスタイル(内外装ともにコンセプトデザインを女性が手がけた)である。そういう意味では、走りとスタイルの調和が取れているとも言える。アルミニウム製ハードルーフは重量も軽く、開閉前後で走りのバランスを大きく崩していないのも印象的だった。開閉時間はおよそ20秒。走行中の開閉は不可。
ノーマルモードでの乗り心地はソフトではない。芯をゴムで包んだような硬さはあるが、助手席の不平は最低限に抑えられそう。それよりも高速域での安定感が増した。フラットで非常に気分がいい。やはりGTカー的要素が濃くなったように思う。
グレード紹介をしておこう。直噴直6ツインターボを積む最上級グレードは、sドライブ35iである。sドライブとは、リムジンシリーズ以外で2WDを意味するもの。本国には6MT仕様もあるが、日本へは7速DSTのみが導入される予定。その他、sドライブ30iという3l直6自然吸気モデルも存在するが、日本への導入予定はない。代わりに、2.5l直6のsドライブ23iがやってくる予定だ。こちらには6ATが組み合わされる。