未来を先取りすることに価値を認める人に
電気自動車そのものの歴史はガソリン内燃機関よりも実は古いが、石油の20世紀を経てようやく量産市販電気自動車が登場した。三菱のi-MiEV(アイ・ミーブ)はその名を歴史に刻もうとしている。”これが今話題の電気自動車のカタチです”とマスコミで紹介されることが多いが、中も外もカタチそのものは三菱i(アイ)である。
ミッドシップレイアウトを生かして永久磁石式同期型モーターとリチウムイオンバッテリーを積み込んだ。モーターの出力はガソリン軽自動車のターボモデルと同等だが、トルクは約3倍。気になる満充電時の走行可能距離は、10・15モードで160km。電気自動車の場合、エアコンなどの影響が大きく出るため、実際には100~120kmあたりを目安に走るのが精神的にも安心できるだろう。
今のところ非常に高価で、企業がイメージ的に導入する以外、現実的なクルマではない。現時点では政府や地方自治体の補助をもらっても、300万円以上してしまう。そんな軽自動車はおいそれと乗れない。いくらランニングコストが安くても割に合わないからだ。けれども、過去の電気製品を見て欲しい。何でもそうだが、出始めのうちはとても手が出ないほど高い。憧れの品だ。そのうち、買える価格に落ち着いていく。それが競争市場に支えられた工業製品の進化というものだ。
充電方法は3つ。家庭用100Vで14時間、200Vで7時間、そして急速充電(特別な施設)を使えば30分で80%の充電が可能だ。この字面だけをみて、”家じゃそんな長い間充電できへんなあ”と思うかもしれないが、”ガソリンスタンドで5リッターだけ入れてね”、というのと同じで、必要に応じて使いこなせばいい。あとはインフラの問題ではあるが、充電施設そのものは、漏電など安全対策が必要であるにせよ、根本的にはガススタンドほど大事ではない。要するに、間違いのない知識と、適切で安全な設備、そしてユーザー側の身構えない気楽な気持ち、が電気自動車普及の鍵だと思う。
それにしても、内外装ともにガソリンモデルとほとんど同じというのが少しがっかり。ガソリン車の代わり、という概念がある限り、なんでもそれとの比較になってしまう。もう少し”新しい乗り物”に見せて欲しかった。特にインテリア。コストの問題らしいが、ガソリンモデルと変わらなさすぎ。
EVにはEVの、ハイブリッドにはハイブリッドの、純内燃機関にはそれなりの、実用上のメリットや精神上のプラス作用があるはず。石油がなくなるのはまだまだ先だということも分かってきた。電気だって原子力をどう考えるか、再生エネルギーはどこまで安定供給できるか、など問題は山積している。これからしばらくは、選択の時代が続くだろうし、そうであって欲しいと願う。
量産電気自動車のライフドフィールはどうか。ひとことで言うと”新しくて愉快で気持ちいい”だった。エンジンのない自動車なんて! と思っていたクチだが、それとは別種の、面白さがある。
なんといっても、乗り心地がいい。とても軽自動車とは思えない。この感覚を知れば、もうほかのKカーには乗れないと思う。それこそレクサスLS600hくらいを持ってきてくれなきゃ嫌だ! もちろん、視覚的な要素以外で、という注釈付きだけれど。そして、加速フィールの新しさといったら! 一瞬、ふっと重量がぬけたようになって、ヒュ~ルヒュルヒュルヒュルゥと、まるで空気に乗ったかのように、そう追い風に流されるように加速していく。しかも、重厚感がある。そのアンバランスが未経験のもので、楽しく感じられるのだった。もっとも、電気自動車が増えてくれば、そういう印象も薄れていくと思うが。
クルマとしての機能は、最大航続距離以外、まるで問題ナシ。試乗したその日からすぐに使いたおしたいと思ったほど。クルマの新しい走りの魅力がある、という点でも、注目できる存在だ。